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不思議な力を持っていた祖母

不思議な力を持っていた祖母

子供の頃、私には霊感がありました。今はありません。中学生くらいまでは変なものをよく見ていたのですが、ある頃を境目にそういったものを見る頻度が減っていき、今ではまったく見なくなりました。今はむしろ真後ろに友達が立っていてもまったく気付かないくらいの鈍感です。

まだ霊感があった頃、霊との遭遇は日常茶飯事でした。電信柱の影によくわからないモヤモヤしたものがいたり、顔に能面をつけた何かが木の枝に座っていたり、空に人型の真っ白な紙がふわふわ飛んでいたりしました。それらは全て霊でした。多くの霊はそれほどの害はなく、こちらから話しかけたり合図を出したりしなければ、向こうも特に干渉してきません。この霊は安全、この霊は気付かないフリをしたほうがいいもの、この霊は近寄ってはいけないもの、といった区別が、私にはなんとなくわかりました。別に誰から教えられたわけではないのですが。そして、うっかり危険な霊と接触してしまうと、その後、霊が家まで憑いてきたり、怖い目に遭わされたり、必ず大変なことになりました。

私の霊感は母方の祖母譲りのようです。祖母は若い頃、郷里の村で祈祷師をしていたことがあるほどの人物で、とても強力な霊感を持っていました。しかしそれは母には全く移らず、その母の娘である私に色濃く受け継がれたのです。霊感にも隔世遺伝というものがあるのかもしれません。祖母とはひとつ屋根の下で育ちました。怒ると怖い人でしたが、普段はとても優しい人で、私が悪い霊を憑けてきてしまうと、祖母が「また大変なものを持ってきてしまったねえ」と言い、すぐに祓ってくれました。祖母は除霊の術を心得ていました。数珠を握りしめながら呪文のようなものを唱え、日本酒と塩を私に吹きかけると、連れてきた悪いものはすぐに私から離れていきました。

祖母は私以外の人に除霊をすることもありました。多分、祖母はちょっとした有名人だったのでしょう、なにか良くないものに憑かれた人が時々、除霊をしてもらいに家にやってきていました。私にも霊感がありましたので、祖母をたずねてくる人の背中には大体変なものが憑いていました。それは黒いモヤモヤしたものだったり、人の姿をしたものだったりと、様々でしたが、どれも多かれ少なかれ「危険」と感じる霊でした。そんな霊も祖母の手に掛かればすぐに祓われ、帰る背中にはもう何も憑いていないことがほとんどでした。

しかし、そんな祖母でも祓えなかったものもありました。

ある日、中年の夫婦が祖母を尋ねてやってきました。テレビのお笑い芸人が話すような関西地方のイントネーションが特徴的で、当時小学生だった私にも、かなり遠くのほうからやってきたことがわかりました。そして何より、玄関に出迎えた私の目を奪ったのは、その女性に憑いていた異様なものでした。人間よりはるかに大きな、鬼のようなものが背後にピッタリと憑いているのです。その鬼は私のほうを一瞥すると、とても不気味な表情でニタリと笑いました。いま思い出しても恐ろしくて身震いします。私はそのあまりの不気味さに、足がすくんでその場にへたり込んでしまいました。その直後、すぐに祖母がやってきて、物凄い剣幕で「あんたは部屋に行っていなさい!」と私を叱りつけました。そして夫婦のほうを見て「申し訳ありませんがそれは私にも祓えません。お引き取り下さい」と頭を下げ、何度もお詫びをしていました。夫婦は最初「そこを何とか……」と食い下がっていましたが、祖母は「私には祓えない」の一点張りで、やがて夫婦も諦め、そのまま帰っていきました。私はそれを柱の陰から見ていました。

彼らが帰ったあと、祖母はとても険しい表情で玄関に塩を撒いていました。「お婆ちゃん、あれは何だったの?」とおそるおそる尋ねると、「あれは神様だよ。とても怖い神様。ああなったらもう人にはどうすることもできないの」と話してくれました。

そんな祖母は、私が中学生になるころに体調を崩し、寝たきりになりました。やがて痴呆の症状も現れ、物忘れがひどくなり、よくわからないうわごとを口にするようになりました。私は祖母がとても好きだったので、よく祖母の寝ているベッドに足を運んでいましたが、祖母はしきりに「あなたの分も持っていってあげるからね」と言ってきたのを覚えています。私の霊感が弱くなっていったのはちょうどその頃からです。以前はよく見ていた霊もあまり見なくなり、なんとなく感じる程度になり、その感覚も少しずつ薄れていきました。そして私が高校に上がる頃、祖母は亡くなりました。その頃にはもう私の霊感は完全に無くなっていました。

きっと祖母は私の霊感を代わりに吸い取ってくれたのだと思います。霊を祓える自分がいなくなっても、私がちゃんと不自由なく生きていけるようにしてくれたのでしょう。祖母のことは今でも大好きです。実家を離れた今も、年に一度は必ず地元に帰り、お墓参りをするようにしています。

(東京都中野区 柏崎芳香さん 26歳 保育士)

鵬鳴先生より

霊能の道を歩む者として大変興味深いお話を聞かせていただきました。そのお祖母様はとても力の強い霊能者だったようですね。あらゆる不浄霊をすぐに除霊できるほどの力を持つ方はそう多くはありません。それほどまでに強力な霊感を持つ方であれば、遠方から除霊をしてもらいに訪れるお客様も絶えなかったことでしょう。そして投稿者様もかつてはそれに匹敵するほどの霊感をお持ちだったようです。頂戴しましたお手紙の筆跡を霊視で鑑定しましたところ、確かに今の投稿者様には霊感の類はほぼ有りませんが、かつて強力な霊感があった“なごり”のようなものを感じることができました。

なお、ご投稿された文章に出てきました鬼のようなものですが、それは恐らく家系に憑く祟り神であると推測できます。力の強い霊能者は大抵の不浄霊を祓うことができますが、例えどれほどの力を持っていても、人に神様を祓うことはできません。神様に憑かれること自体が極めて稀ですが、何かとてつもない禁忌に触れる行為をした場合、また先祖から受け継がれる「祟り」のような強力な因縁がある場合、それは除霊を心得た霊能者程度の力ではどうすることもできないでしょう。

霊感を持っているということは決して良いことではありません。むしろ性質の悪い霊体につけ狙われたり、奇妙な縁や因業に巻き込まれてしまったりすることも多く、その頻度や危険性は霊感が強くなればなるほど比例して高まります。お祖母様はその強い霊感ゆえに大変厳しい目に遭ってきた方であり、自分の死期を悟ると「同じ苦しみを味わわせたくない」という一心で投稿者様の霊感も吸い取り、ふたり分のものを背負ってあの世に向かわれました。

なお現在、お祖母様は先祖霊となってご投稿者様を見守られているようです。