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道祖神の祠

第9話

天啓に所属するより以前、個人で鑑定を請け負っていた頃、とある地主の方からご連絡が入りました。なんでも「新しくマンションを建てたいのだが道祖神の祠があって困っている」とのこと…。

その祠を動かそうとすると祟りがある

道祖神の祠

以前、とある土地の地主の方から道祖神の祠をどかしたいという依頼が入りました。その方は以前から代々そこに土地を持つ一族とのこと。昔は一面の野原だったそうですが、戦後の土地開発で電車が通るようになり、ここ数十年ほどのうちに東京で働く方のベッドタウンとして都会化してきたとのこと。立地もよく、近隣の駅が大規模改築する計画もあり、古くからある一軒家を潰してマンションを建てることにしたそうです。

しかし、計画を実行に移す際、ひとつ問題がありました。その土地の隅には道祖神の祠があったのです。ご依頼者様は以前より、お父様やお爺様(共に他界されているとのこと)から「この祠は動かしてはならない、おろそかにしてはならない、祟りが起きる」と厳しく言いつけられてきたとのこと。近所に神社の類もなく、相談できる相手がいないということで、霊能者を探し、私のところに依頼されてきたそうです。

マンションや建売住宅に挟まれた木造の一軒家の片隅に…

件の土地は、当時の住居兼事務所からそれほど遠くありませんでしたので、直接伺うことにしました。電車で一時間ほど移動すると駅に着き、そこでご依頼者様と合流。駅前はバスのロータリーがあり、商業施設も多く、平日の昼間だったこともあり小さい子連れの主婦の方などが歩いていました。

そこから数分ほど歩くと、マンションや建売住宅に挟まれるように、古い木造の一軒家がありました。そして、土地の隅には古びた祠があったのです。祠にはお供え物と花が添えられており、ちゃんと世話されていることが見て取れました。「こちらです。どうかよろしくお願いします」そう言われ、私はさっそく霊視を開始しました。

悪鬼を封印し守り神にした祠

霊視すると、封印されている者の意思をすぐに感じ取ることができました。その者はかつてこの周辺に災いを呼んでいた悪鬼の類で、数百年ほど前に通りかかった修験者により封印され、道祖神として人々を護る役目を与えられたそうです。怨霊や悪鬼といった本来良くないものを封じ、守り神とする風習は古来より日本にあり、有名なところでは平将門の塚などがそれに当たります。「動かせば祟りがある」と言われていたのは、その道祖神の祠に封じられていたものが本来悪いものだからでしょう。

しかし、その者と直接対話を試みてみたところ、邪悪な意思は全くと言っていいほど感じ取れませんでした。むしろ、数百年もの間、ご依頼者様の一族に大切にされてきたことをとても恩義に感じている、と伝えてきたのです。「家を建て替えることになったので、祠をどかしたいのです」そう伝えると、「長いあいだ世話になった、私は自然へ返る、もう悪さはしないから安心してくれ」と言って、大人しく消えていきました。

新しいマンションはすぐに入居者でいっぱいに

ご依頼者様に顛末を伝えると「そうでしたか…それはとてもよかったです」とおっしゃって下さいました。そして後日、私の立ち合いの元、供養をした後に祠を撤去いたしました。それからすぐに一軒家は解体。十ヵ月後には立派な鉄筋マンションが建ちました。立地が大変よかったこともあり、マンションには入居希望者が殺到。分譲物件であるにもかかわらず部屋は全室すぐに埋まったそうです。ご依頼者様の一家は現在、そのマンションの最上階に住んでいるとのこと。特に祟りや怪異現象の類もなく、入居者も穏やかな方ばかりで、平穏な日々を過ごされているそうです。